Let It Be ルカによる福音書1章35~38節 ー 日本基督教団 磐上教会 牧師ー 河北朝祷会より (2019.1.10 第217回)

久生十蘭の短編小説『虹の橋』。戦後の混乱期、刑務所で生まれた身の上が露見するのを恐れ職を転々とした主人公、真山あさひは、同僚の北川千代が自分の名で男と心中したのをきっかけに「北川千代」に成りすまして、千代の目の不自由な祖母フサと同居を始め、味わったことのない家族の幸福を感じるのですが、千代が犯した殺人の容疑で逮捕されてしまいます。

あさひは、フサが自分を孫の千代と信じて服役から戻るのを待ってくれていることを知ります。「お手数をかけました…あたしは北川千代でございます。公訴の事実を認めます。」あさひははっきりと覚えのないことで身ごもっていました。獄中で女児を産み、過酷な境遇の中でも清らかな心根を失わない主人公の決意が胸を打つ小説です。

降誕物語の受胎告知。救い主はこの世に来られました。聖書は、傷ついた世界を愛して下さる神を証ししています。

いまグローバリズムの陰で、難民問題があります。フォーブスジャパン二〇一八年十二月号の有働由美子さんの記事「私が南スーダン難民取材で感じたこと」は百万人を超える南スーダン難民を受け入れるウガンダ共和国の難民居住区を取材したレポートでした。ある少女は16歳で四ヶ月の女の子の母でした。南スーダン内戦で両親が行方不明となり、ウガンダ難民居住区で保護されました。母の消息を知るために危険を冒して帰宅を試みましたが、母は見つからず見知らぬ男に声をかけられ、食事をもらって数日共に過ごした後に男は姿を消して、少女はやむなく居住区に帰りました。やがて少女は妊娠します。弟たちを里親に出し、大好きな中学校にも行かれなくなり、少女の心と体はぼろぼろになりました。居住区の中で娘を出産し、NGOの支援で娘を育てつつ少しずつ生活力をつけているとのこと。難民居住区には望まない妊娠をした女性が生活しており、性教育の普及は緊急な課題の一つです。

世界の難民は日々規模が拡大し解決困難ですが、関心を向け叡智を尽くして改善する努力を続けて行かなくてはなりません。神は希望を持って生きる勇気を与えます。ヨセフのいいなずけマリアはローマ支配下の世界の片隅ナザレで暮らすユダヤ人の女の子。身ごもって男の子を産むと天使から告げられ、身に憶えなく未婚で非嫡出子を産むことが恐ろしくなりました。でも天使は少女に「生まれる子は神の子と呼ばれる」と告げ「神にできないことは何一つない」と伝えます。少女は「お言葉どおり、この身になりますように。Let it be to me according to your word.」と答えました。

ビートルズの「 Let It Be 」は聖母マリアのこの言葉です。「なるようにしかならないのだから、なるがままに」ではなく、マリアが天使の報せを謙遜に受け入れた清らかな勇気を表します。「世界中の心が破れた人々はうなずくだろう。答えは必ずある、と。離れ離れになってしまうかもしれないけれど、また会うチャンスはある。答えは必ずある。」

新年に、どうか神が私たちに智慧を与え、勇気を養い続けて下さいますように。